■深刻なCD不況の中で快進撃を続けるAKB48 他の多くの産業と同じく、音楽業界も市場の縮小に悩まされ続けています。 一般社団法人日本レコード協会の統計によれば、音楽ソフトの生産量は1997年をピークに減少を続け、ここ14年で半分近くまで減少するなど、予想を上回るペースで市場の縮小傾向に歯止めがかからない状況に陥っているのです。 この急速な市場縮小の原因としては、長引く不況を始めとして、少子高齢化、技術革新による消費者のライフスタイルの変化などが挙げられるでしょう。 デフレ経済の解消が進まず、消費者の可処分所得は年々減り続けているうえに、少子高齢化で音楽業界のメインターゲットとなる若年層も減少の一途をたどっています。また、デジタル技術の進展により、多くの無料で利用できるコンテンツがインターネット上にあふれるなど、お金を払わなくても音楽を楽しめる時代になっているのです。 そこで、わざわざ高いお金を払ってまで音楽ソフトを購入しようと考える顧客が少なくなっていることは想像に難くないでしょう。 このような激しい逆風が吹き荒れる音楽業界において、快進撃を続けているのがAKB48。12月5日に発売された29枚目のシングル「永遠プレッシャー」では、通算11作のミリオンセラーを記録し、Mr.Childrenの通算10作を抜き去って、B'zの15作に次いで歴代第2位に浮上しました。 また、12月20日にオリコンが発表した2012年の音楽ソフト年間ランキングでは、3年連続年間シングル1位、2年連続年間トップ5独占、そして2年連続5作のミリオンという史上初の快挙を成し遂げるなど、厳しい環境の中で勢いは衰えるどころか、ますます加速度を増しているのです。 特筆すべきは、AKB48のこれらの記録が音楽不況の真っただ中で達成され続けている点にあります。■なぜAKB48は売れるのか? なぜ、AKB48は他のアーティストが苦戦を余儀なくされる中で、記録的なヒットを続けることができるのでしょうか? その秘訣を浮き彫りにして、自社のマーケティング戦略に取り入れれば、どんな環境であっても成果を上げることができそうです。 AKB48が売れる理由は数多くありますが、最も重要な要因を挙げれば、徹底的にファンのニーズに応える姿勢といえるでしょう。 もともとAKB48は「会いに行けるアイドル」というコンセプトでスタートしたプロジェクトであり、それまでの「アイドルは近寄り難い偶像的な存在であり、遠くから応援するもの」という常識を覆してきました。 これまでは「完成されたアイドル」への憧れからCDを始めとしたアイドル関連商品をファンが購入するというビジネスモデルでしたが、AKB48では「未完成のアイドル」をファンが間近で応援しながら夢の実現をサポートしていくという新たなビジネスモデルへの転換を図って大きく成功を収めたのです。 消費者の財布に余裕があり、さまざまな商品を購入できる場合には、マスメディアを最大限に利用した「空中戦」で、購入を促していく戦略が有効になりますが、不況で財布のひもが堅くなっている現代のような環境では、より顧客に密着した「接近戦」で、顧客の心に直接訴えかけて財布の口を自ら開けてもらう戦略が効果を発揮するようになります。 実際にAKB48は今では「国民的アイドル」とも言われていますが、その売上を支えているのは一部の熱狂的なファンといえるでしょう。 たとえば、昨年発売された5枚のシングルの売上は、「GIVE ME FIVE!」143万枚、「真夏のSounds Good!」182万枚、「ギンガムチェック」130万枚、「UZA」121万枚、「永遠プレッシャー」107万枚ですが、発売1週間での売上がそれぞれ129万枚、162万枚、118万枚、113万枚、107万枚に上りました。つまり、この統計から売上のほとんどは普段から販売を待ちわびている熱狂的なファンの購入によるものと推測できるでしょう。