郷好文の"うふふ"マーケティング:
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秋雨前線の到来とともにヤマイにかかった。
コホンコホンじゃない。
"手づくり"というビョーキである。
●手づくりがイイ!の背景には……
今秋のビョーキは服飾系。
某社のプレス発表会でいただいた布バッグを流用したバッグカバー、ジーンズのポケット加工、帽子にはスカーフをぐるっと巻いてみた。
ゼロからではなく既製のモノに少し手を加える。
それだけでユニークになる。
私はそれほど手づくり上手ではない。
でもなぜか好きである。
うがった分析をすれば、デフレ時代、所得も減り豪快に遊べなくなった。
チクチクやトントンなら安く遊べる。
それもあるが、それだけじゃない。
「モノを買うのがエキサイティングじゃなくなった」
機能追求商品に心が響かない。
アイデア商品にもハハン……で、デザイン商品にプレミアムを払う人も減った。
実体を買わず仮想を買う時代だ(CDも本も売れない)。
街行く女性の肩にルイ・ヴィトンもずいぶん減ったなあ。
「モノ消費よりコト消費へ」――モノに払わず体験に払う。
3.11震災後の「絆消費」もまだ続く。
Facebook発の「いいね!消費」も増加中。
大量生産・大量消費社会への抵抗もある。
「手づくりは閉塞する市場の救世主になる」とも思うのだが、そんなパワーはあるのだろうか? そんなことを考えつつ、手づくりを探して街に出た。
「仕上がりがね……」「オレ不器用だから」という人も「意外にできるじゃん」があった。
●街には手づくり素材やキットがいっぱい
まず東急ハンズ。
素材売場には"発泡スチロールの宇宙人"がいた。
丸いスチロールにグニュグニュホースを付けてカラーリングという発想力がすごい。
ちぎって貼るのが楽しいマスキングテープは幅広タイプが人気だ。
壁にもドアにも机にもPCに貼っても楽しい。
皮革売場には縫うだけで完成するiPhoneケースもある。
これなら手づくりだから……という言い訳ナシのバッチリな仕上がり。
お子さまレザーシューズキットは「君はね、パパが作った靴を履いていたんだよ」と何年後かに胸を張っていえる。
手芸用品のユザワヤ銀座店に移動する。
オバさんが多いがひるまず店内へ。
「オレ編み物なんて……」いうな。
私もできない。
でも「毛糸イマジネーション」ならあや取りの要領で、5分で帽子やネックウエアが編める。
ブレスレットやネックレスのアクセサリーの自作パーツ素材やキットもある。
たった2000円で彼女にオンリーワンの手づくりプレゼントもできる。
「こんなのいらね」といわれても吾輩は一切責任をもたない。
もちろん布地が豊富なのはチクチク派には刺激的である。
文具好きには「手製本」もある。
表紙と本文紙を糊で合体させる。
筆者は神田の美篶堂のワークショップで教わったワザで、使うノートはすべて自作である。
皺がよっても気にするな。
駿河台のキハラでも製本道具や材料がそろう。
製本までは……という向きには「えらべる帳」もある。
オモテとウラの紙、ノート用紙を選べる。
図柄も無地から地図までいろいろ。
三省堂本店で1冊980円、15分でオーダー仕上がりがうれしい。
100円ショップもあなどれない。
キャンドゥでペンケースの作り方の説明書付きのファスナーを見つけてチクチクご満悦。
ダイソーでもパッチンの小銭入れキットが売っている。
型紙付きで好きな布をチョキチョキ、チクチクすれば出来上がりだ。
キミでもきっとできる。
だが手づくりといえばオナゴの牙城。
女子が盲目に買い漁るショップが浅草橋にあるのを男子は知らない。
それは貴和製作所。
ブレスレットやネックレスなど手づくりアクセサリーのストーンや金具がいっぱい。
驚愕の売れ行きだ。
●予想以上に大きい手づくり市場とその顧客たち
こうしてみると手づくりにもいろいろな業態がある。
整理しよう。
素材、キット、教室……どれが売れるのだろうか?
雑誌メディアと手づくりを合体させたフェリシモは500億円企業である。
女子が群をなす貴和製作所は、売上非公開だが60億円はある模様。
マスキングテープの「mt」をヒットさせたカモ井加工紙は、mtのみで最低数億円は売上げている。
ハンズやユザワヤはいうに及ばず。
市場は予想以上に大きい。
何しろ顧客はコアで、ヘビーユーザーで忠誠心が高い。
特定の企業やサービスへの忠誠心というより、手づくりという「イズム」への忠誠心。
火ダネはいつも点いている。
興味を持つ→キットを作る→教室に通う→オリジナルを作りだす→先生になる……という単価アップのサイクルも見える。
自由な素材や「作りたい!」と思わせる提案や見本で、ボッと燃え上がる。
ある意味ダイエット市場と似ている。
だが気になることもある。
「手づくりは野望と真逆」なのである。
手づくりは人をやさしくする。
大それた欲望を抑制する働きがある。
例えば「起業して一発儲けよう」よりも「コタツでチクチク、幸せだなあ!」という草食系になる。
まあ今の時代、そのくらいがちょうどいいのかも。
●手が楽しいと心も楽しい
手づくりの最大の魅力は「心の集中という満足」である。
手づくり中に人生や仕事を考えだす。
「今の仕事、あれでいいのかな……」「オレは何者なんだ……」という心の修養が真の効用である。
貴和製作所でこんな光景を見た。
2階売場から階段を降りてきた70代後半と思しきオバアちゃん。
目をキラキラさせて連れにいった。
「ここに来て、すっごく元気もらったわ」
手づくりは心を元気にする。
心の動脈硬化を防ぐ。
手づくりじゃないが、AKB48やグラドルが「握手を売る」のは正しい。
ファンは写真集に払うわけじゃない。
手が楽しいから払う。
恋人と手を握りたいからおごるでしょう?
手はニーズやウォンツを頭よりよく知っている。
手が楽しいことは心も楽しい。
手を喜ばせるビジネスをやりましょう。
[郷好文,Business Media 誠]