現在、日本アイドルシーンのトップに君臨しているAKB48。
テレビなどでさんざん曲が流れまくっているので、まったく興味がなかったとしても代表曲のサビくらいはフフフーンと歌えたりするんじゃないだろうか。
そんな国民的アイドルとしての地位を確立しているAKB48だが、メンバーの顔と名前をどのくらい覚えているかといわれると……。
なんせ人数がスゴイので、かなりのガチなファンでもない限りすべてのメンバーを把握なんてできてないんじゃないだろうか。
だってSKE48、NMB48、HKT48などの姉妹グループに研修生まで合わせると、総勢で200人以上にもなるらしいもん。
そんなん覚えるの無理だーッ! もちろん、AKBグループ以外にもたくさんのアイドルたちが存在する。
この夏、開催された一大アイドルイベント「TOKYO IDOL FESTIVAL 2012」には、AKBグループからはSKE48しか参加していないにもかかわらず、111組、732人ものアイドルが出演した。
AKBグループでもなければ「TOKYO IDOL FESTIVAL」にも参加していないアイドルだってまだまだいるし(「サイゾー」でおなじみの小明ちゃんとかね!)、とにかく今の日本には、少なくとも1,000人以上の「アイドル」と呼ばれる活動をしている子たちがいるということだ。
さらに、AKBのメンバーオーディションには毎回数万人の応募があるというし、アイドル・ワナビー層まで含めたら、ホントにすさまじい数のアイドルが存在している今の日本(しかも男性アイドルを抜かしてこの数!)。
日本の歴史上において、かつてこれほどまでに大量の「アイドル」が存在した時代があっただろうか!? ……ないだろうなぁ。
時はまさにアイドル戦国時代! で、こんな巨大なシーンが生まれると、当然その中ではピラミッド構造のヒエラルキーが形成される。
ゴールデンタイムのテレビ番組や巨大なライブ会場でガンガン活躍しているトップアイドルから、もうちょっと小規模なステージで活動しているB級アイドル、そして数十人も入ればいっぱいな地下のライブハウスが主戦場となる地下アイドルたち。
言葉の通り「地下のライブ会場で活動するアイドル」という意味ではあるものの、「地下アイドル」と言っちゃうと「地下格闘技」や「地下カジノ」などのように、あまりにもアンダーグラウンドな感じがしてイメージが悪いからなのか、最近では「インディーズ・アイドル」などとも呼ばれているらしい。
とにかく、彼女たちが現在のアイドル・ピラミッドのボトムをガッチリと守っているのは間違いないだろう。
そんなインディーズ・アイドルたちを総勢208人も一気に紹介しているのが、この『インディーズ・アイドル名鑑』(河出書房新社)。
パラパラとページをめくってみると……それなりにアイドルシーンに興味を持っているつもりのボクでも、ほっとんど誰が誰だか分からないッ! そして、「アイドル」にとってかなり重要なステータスのひとつであるハズの顔面偏差値も「メジャーなアイドルよりも遙かにカワイイよ!」という子から、「コレでアイドルになろうとは……アンタ、どういうつもりだ!?」と説教したくなるレベルまで公立中学の生徒並みに幅広く、現在のアイドル業界の裾野の広さを実感せずにはいられないのだ。
さて、この『インディーズ・アイドル名鑑』。
208人ものアイドル(一応)を紹介はしているものの「この子はこういうグループでこういう活動をしていて……」みたいな細かい解説は一切ナシ。
女の子ひとりにつき1ページ、白バックのスタジオで撮影された写真が1枚だけ掲載されており、隅っこに、申し訳程度に名前とグループ名が表記されているだけ。
ホント、カタログのようにアイドルちゃんたちが羅列されているという編集になっている。
聞いたこともない、しかも顔面偏差値もビミョーなアイドルのグラビア(しかも基本、非エロ)を解説もナシで延々見せられて面白いのかいな? という気もするが、ひとくちに「アイドル」といっても本格派からイロモノまで、従来のアイドルという枠には収まりきらない衣装やコンセプトで多種多様に進化したアイドルちゃんたちの「なんとかこの1枚の写真で自分のアイドルとしての魅力を伝えよう!(そんで売れたい!)」という気合いがビンビンに伝わってくるグラビアは、なかなかに見応えがあって面白いのだ(「最ブス・アイドルを探せ!」的な見方をしても相当楽しめるけど)。
それにしても、必ずしも顔面偏差値が高くなくても、スタイルがよくなくても、コンセプトやインパクト勝負で「アイドル」と言い張っている子たちが、今の日本にはこんなにいるのかと……(もちろん直球勝負してる子もいっぱいいるけど)。
で、そんな子たちにもそれなりにファンがついて、愛されているという懐の広さが現在のアイドルシーンの面白さともいえるのではないだろうか。
しかしこの状況、オジサン世代としては若干90年代のバンドブーム・イカ天ブームを思い出さずにはいられないのだ。
演奏力や楽曲以上に衣装や珍妙なパフォーマンスが注目を集め、なぜか水泳選手の格好をしたバンドや、歌舞伎メイクで決めたバンドなど、ワケの分からないヤツらが次々に注目されては消えていったあの時代。
もちろん、そんな中から後世に残るようなガチで実力のあるバンドたちもたくさん輩出されたので、今のブームが過ぎた後、アイドルシーンがどうなっていくのかというのは楽しみではあるのだけれど。
ただ、ちょっと気になるのがお金事情。
バンドブーム当時、とにかくどんなバンドのCDでもそれなりに売れて、レコード会社や事務所はガンガン儲かっていたのに、契約やお金の仕組みを全然分かっていなかった若いバンドマンたちの手元にはほとんどお金が入ってこなかった、というような話をよく聞くけど、今のアイドルシーンでも同じようなこと、起こっていないといいけどなぁ~……と。
とある事務所では、それなりにCDなどが売れているにもかかわらず、今までの赤字が解消されるまでアイドルはノーギャラ。
あるアイドル・コンピレーションアルバムは握手券やツーショットチェキでファンを釣ってアルバムを売りまくっているのに、アイドルに対する印税はナシ(現物支給で手売りした分がギャラらしい)なーんて話を小耳に挟むたびに、ファンたちは何もプラスチックの円盤をいっぱい欲しいわけじゃなくて、「アイドルの生活が少しでも楽になれば……」「活動がもっと広がれば……」と思って何枚もCD買ってるんだからな! とは思ってしまう(アイドルを売り出すのにいろいろ金がかかるのも分かるけどね)。
じゃなかったら、かつてバンドシーンがそうなっていったように、事務所やレコード会社を通さずにホントの意味での「インディーズ」な活動をしていくアイドルがドンドン増えていくんじゃないかな。
若い女の子たちが自分たちだけで……というのはそれはそれで色々と問題が出てきそうだけど、それを乗り越えた本当に面白くてインディーズなアイドルが出てくるのが楽しみでもある。
……ところで、この本もアイドルたちにちゃんとギャラ、出てるのかな?
(文=北村ヂン)