■アイドルは浮草稼業、将来が確実な宝塚
「AKB48」をはじめアイドルが活躍できるのは期間限定で、10代半ばから20代前半までの長くて10年間ぐらい。
プロ志向というよりは放課後のクラブ活動的なノリで、本人たちもこれで一生食っていくぞといった覚悟はそれほどない。「おニャン子クラブ」「モーニング娘。」、そしてAKBにしてもメンバーの数は多く、同年代のファンを抱え込んでアイドル予備軍を引き寄せ、瞬く間に消費されてしまう。その結果、新たにアイドルの世代交代が進むことになる。
ただ、今回のAKBは、テレビから売り出すという今までのグループのコンセプトとは異なり、秋葉原といういつでも誰でもが会える舞台から出発させ、現場から発信する手法を取った。さらにネットを使い、口コミによって情報を増殖させ、それと相まってヒットしたというのが特徴的だ。
一方の宝塚は若くて15歳、一番年長だと18歳で入り、2年間音楽学校へ通ってからデビューするので、遅い人では20歳になってからになる。きちっと養成期間があり、宝塚という集団の中で切磋琢磨して鍛えられる。かつて宝塚は良家の子女が良妻賢母の教育を受け、劇団で活動した後に医者や弁護士などとお見合いをして結婚するのが主流で、一握りのトップスターたちが芸能界に進んだ。今は芸能界の予備軍というほどではないが、舞台で活躍した人がそのまま芸能界に入るパターンもかなりあるとはいえ、それでも学校教育をしてくれるし、しつけもしっかりしてくれることでひとつのブランドになっている。だから「宝塚に入ったら? 」と言う親はいても「AKBに入ったら? 」と勧める親はほとんどいないだろう。
将来性の点でも宝塚は、音楽学校に合格すれば必ず宝塚歌劇団に入れるわけで、親としてはありうる選択肢だ。宝塚は入学試験があり、高校卒業相当までという年齢制限があるのも、受からなければ諦めるだろうという安心感がある。ところがアイドルグループは本当に浮草稼業で、オーディションに合格してもデビューできるかどうか将来が見えずに不安だ。子供からグループに入りたいと言われて「えっ? 」となるのが一般の家庭ではないだろうか。
しかし、あわよくばオーディションに合格してデビューするというスピード感からすれば、宝塚は芸能界への登竜門としては遠回りだ。舞台で訓練を積んである程度成功した後に、いろいろな形で芸能活動をしようとしても舞台が中心になる。そういう意味ではテレビやCDといった華やかな表舞台よりは、かなり地道な活動が主流になる。
いずれにしろ子供が何を目指すかによる。「本当に何をやりたいの? 」と突き詰めたときに、歌が好き、踊りが好き、芝居が好きとはっきりした目標があれば、音楽学校の教育をしてくれる宝塚のほうを勧めるべきだろう。AKBなどアイドルになりたい子の中には、芸を磨きたいということよりも、テレビに出て有名になりたいと考えている娘が多い。そういう子にはアイドルの泡沫的な人気を教え、「そういう生き方はどうなの? 」と問うてみるのが大事ではないか。あるいは「国民的美少女」でグランプリを取る、「ホリプロタレントスカウトキャラバン」でスカウトされるといったような、外部からタレント性が認められることを条件にするのもいいかもしれない。
AKBと宝塚ではもともとの志向も目的も違う。アイドルの置かれている状況をきちんと説明し、自分の進路についてきっちり娘と話し合うことが大切である。
---------- 法政大学社会学部教授 稲増龍夫 1952年生まれ。東大大学院修士課程修了。専門分野は社会心理学、メディア文化論、現代若者論。著書は『アイドル工学』など多数。 ----------
「AKB48」をはじめアイドルが活躍できるのは期間限定で、10代半ばから20代前半までの長くて10年間ぐらい。

ただ、今回のAKBは、テレビから売り出すという今までのグループのコンセプトとは異なり、秋葉原といういつでも誰でもが会える舞台から出発させ、現場から発信する手法を取った。さらにネットを使い、口コミによって情報を増殖させ、それと相まってヒットしたというのが特徴的だ。
一方の宝塚は若くて15歳、一番年長だと18歳で入り、2年間音楽学校へ通ってからデビューするので、遅い人では20歳になってからになる。きちっと養成期間があり、宝塚という集団の中で切磋琢磨して鍛えられる。かつて宝塚は良家の子女が良妻賢母の教育を受け、劇団で活動した後に医者や弁護士などとお見合いをして結婚するのが主流で、一握りのトップスターたちが芸能界に進んだ。今は芸能界の予備軍というほどではないが、舞台で活躍した人がそのまま芸能界に入るパターンもかなりあるとはいえ、それでも学校教育をしてくれるし、しつけもしっかりしてくれることでひとつのブランドになっている。だから「宝塚に入ったら? 」と言う親はいても「AKBに入ったら? 」と勧める親はほとんどいないだろう。
将来性の点でも宝塚は、音楽学校に合格すれば必ず宝塚歌劇団に入れるわけで、親としてはありうる選択肢だ。宝塚は入学試験があり、高校卒業相当までという年齢制限があるのも、受からなければ諦めるだろうという安心感がある。ところがアイドルグループは本当に浮草稼業で、オーディションに合格してもデビューできるかどうか将来が見えずに不安だ。子供からグループに入りたいと言われて「えっ? 」となるのが一般の家庭ではないだろうか。
しかし、あわよくばオーディションに合格してデビューするというスピード感からすれば、宝塚は芸能界への登竜門としては遠回りだ。舞台で訓練を積んである程度成功した後に、いろいろな形で芸能活動をしようとしても舞台が中心になる。そういう意味ではテレビやCDといった華やかな表舞台よりは、かなり地道な活動が主流になる。
いずれにしろ子供が何を目指すかによる。「本当に何をやりたいの? 」と突き詰めたときに、歌が好き、踊りが好き、芝居が好きとはっきりした目標があれば、音楽学校の教育をしてくれる宝塚のほうを勧めるべきだろう。AKBなどアイドルになりたい子の中には、芸を磨きたいということよりも、テレビに出て有名になりたいと考えている娘が多い。そういう子にはアイドルの泡沫的な人気を教え、「そういう生き方はどうなの? 」と問うてみるのが大事ではないか。あるいは「国民的美少女」でグランプリを取る、「ホリプロタレントスカウトキャラバン」でスカウトされるといったような、外部からタレント性が認められることを条件にするのもいいかもしれない。
AKBと宝塚ではもともとの志向も目的も違う。アイドルの置かれている状況をきちんと説明し、自分の進路についてきっちり娘と話し合うことが大切である。
---------- 法政大学社会学部教授 稲増龍夫 1952年生まれ。東大大学院修士課程修了。専門分野は社会心理学、メディア文化論、現代若者論。著書は『アイドル工学』など多数。 ----------