ニコニコ生放送とBLOGOSがタッグを組んでお送りする「ニコ生×BLOGOS」第15回。2012年を締めくくったテーマは「2012年総決算!ネットの声は新政権に届くのか?」。欧州危機、尖閣・竹島の領土問題、ネット党首討論会、東京スカイツリー開業、AKB48選抜総選挙、官邸前デモなど、2012年も様々なニュースが飛び交いました。その中でも、一番大きな話題をさらったのが、2012年12月16日の衆議院選挙です。約3年3ヶ月ぶりに政権奪還を果たした自民党ですが、安倍新政権にネットユーザーの声は届くのでしょうか!?
ゲストに元産経新聞ロンドン支局長で現在もロンドン在住のジャーナリスト・木村正人氏、朝日新聞の林尚行記者を迎え、海外メディアと最前線で活躍する政治記者が見た衆議院選挙の裏側を徹底分析! 2013年の“ネットと政治”はどうなるのか考えました。(2012年12月20日放送)
【出演】
司会:大谷広太(BLOGOS編集長)
アナウンサー:佐々野宏美会 コメンテーター:須田慎一郎(ジャーナリスト)
ゲスト:木村正人(元産経新聞 ロンドン支局長)/林 尚行(朝日新聞 記者)
ネット党首討論会がメディアに与えた影響
佐々野:2012年も色々なニュースがありましたが、やはり最初は「衆議院選挙」でしょう。報道されている通り、自民党が全480議席中294議席を獲得し、およそ3年3か月に及んだ民主党政治から政権を奪還しました。一方、政権を奪われた民主党はわずか57議席にとどまり、野田総理は惨敗の責任をとって辞任を表明。
第三極では「日本維新の会」が54と大きく議席を伸ばして、民主党に迫る第三党の議席を確保しました。今回の衆院選には様々な争点があると思うんですが、過去の選挙と大きく変わったところといえば、やはりインターネットとの関わり方ではないかと思います。その点についてどんな感想をお持ちでしょうか?
須田:11月29日にニコニコ動画で10人の党首が集まり、党首討論が行われました。これまでは既存メディアが党首討論や選挙報道を仕切ってきたところがあるので、今回、最初の党首討論がネットメディアで行われたのは、非常に大きなインパクトがあったと思います。さらに、選挙戦最終日、安倍総裁と麻生太郎さんが最後に選挙演説をしたのが秋葉原。政治家がネットを意識しないと政治ができない状況になってきたのではないかと思いますが、そのあたりをどう受け止めたらいいんでしょうか?
大谷:ネット党首討論が行われた翌日、日本記者クラブ主催の党首討論があり、ネット党首討論には参加しなかった石原慎太郎さん(日本維新の会代表)も加わった11党の党首で行われました。テレビのゴールデンタイムでも放送されていたのですが、視聴者はどっちが多かったのか興味ありますね。
須田:民主党の安住淳幹事長代行が、最初「ネットで党首討論会をやる」と言ったら「偏ったメディアだ」と敵対心をむき出しにしていましたよね。
大谷:そのあたりが“ネットの声=民衆の声”という話につながるのかなと。ネット党首討論の現場にいて印象的だったのが、党首のみなさんが「インターネットユーザーのみなさん」と、呼びかけをしていたことです。「国民のみなさん」ではなかったのは、もしかすると“ネットユーザー”と“国民像”が、ちょっと違っているのかもしれないですね。初の「ネット党首討論」は、ご覧になっていかがでしたか?
木村:イギリスのBBCは日本でいうNHKのようなものですが、そこが先頭を切ってネットに対応していて、パソコンでもスマホでも見られる。2010年の選挙では、60万人のフォロワーを持つローラさんというBBCの若い女性記者がツイートをしたこともありました。単にツールが紙媒体や放送メディアから広がったという感じなので、日本の既存メディアとネットの間に溝ができているのは、ちょっと悲しいことだと思うんですね。「より効率的に世論の声が直接政治に届くような仕組みを作っていこう」という目標は同じなのに、なぜかいがみ合っているように見えます。
林:僕はネット党首討論会をネットで拝見させていただいたんですが、翌日の日本記者クラブの会見と合わせて見ると、視聴者もよくわかったんじゃないかなと。元々、「1対1で党首討論をやる場をどこに作るか」という話から始まったんですよね。それで、安倍さんが設定したのが“ネット党首討論会”という場で。安倍さんはFacebookでよく発言をされている方なので、その場に野田さんを引っ張り出して来て、ネットユーザーが見ている所で戦いたいということだった。ただ党がたくさんありすぎて、1人数分という決められた枠の中で、結果的に深い話をするゾーンが無かったように思います。
既存メディアとネットメディアに生まれた“溝”
須田:ぜひ、木村さんと林さんに聞いてみたいことがあるんです。それは、ネットメディアの立場からすると、既存メディアは「どうせネット」と上から目線でバカにしているんじゃないのかと。個人的な部分と組織的な部分で、どういう風にとらえているか、お話いただきたいんですが。
木村:僕は既存メディアは巨大で壁があるように思います。今から30年ぐらい前は、社会部と一緒にやっていたので、社会部の方から「アナタたちは、私たちからすごく遠いところにいますね」と言われたことがありません。行けば歓迎されて色々な話を聞くことができ、それを伝えるのが新聞記者の仕事だと思っていました。
それが、今一ブロガーとして個人の立場に立つと、ネット対応にしても課金システムを作って、なんとか取材に充てる財源を確保しようというのが見えちゃって。もうちょっとオープンジャーナリズムに立ち入ってほしいと思います。やっぱり質の高い紙面を作るには質の高い記者を抱えないと。その人たちの給料を払わないといけないから課金して、紙媒体の収入を守りたいというのはわかりますが、そこに距離を感じてしまう。既存メディアとネットの間に“溝”ができるのは、社会の中に“溝”があるということ。それは非常に危険なことだと思うので、そこをうまく誘導できるような双方の働きかけが必要だと思いますね。
須田:外部から見ると、朝日新聞はメディアの中のエリートなんですね。その中でも、林さんのような“野党キャップ”は、スーパーエリート。そのせいか、上から目線で見られているのかなという気持ちもあるんですけど、その点はいかがですか?
林:そういう気は全くないですね。特に政治の現場は、取材対象が政治家や官僚に限られているので、みなさんがどう考えて、どういう反応があるかをすごく怯えながら見ています。そういう意味では、普段、政治を取材している人間として、ネットの世界に対して“恐怖と興味”の両方を持っていますね。
僕は去年、首相官邸の取材班でしたが、政治記者と読者、あるいは読者じゃない取材対象外の人達と意見交換ができたらいいなと思って、去年の1月に「朝日新聞官邸クラブ」というTwitterを立ち上げたんです。最初の1,2週間は3000人ぐらいだったんですが、3.11をきっかけにたくさんの方がフォローしてくださって、今は4万にまでなりました。朝日新聞だから必ず攻撃されるというものでもないし、僕らもそれに対してちゃんと向き合っていこうと思っていますから。
大谷:朝日新聞さんは記者個人でもTwitterをやられていて、官邸担当記者さんのツイートは、その方、個人の生の部分が見えるような、取材の合間のちょっとしたエピソードもありますよね。そういう意味では、今までの新聞記事だけでは伝わらなかった、記者の生身の姿が垣間見えるんじゃないかと思っているんですが、ネットユーザーの反応はいかがですか?
林:“総理番”という記者が2,3人いて、ほとんど24時間体制で総理大臣の動静をずっと追っているのですが、総理がご飯を食べている時は、寒風吹きすさぶ中を店の前で待っているわけです。その待っている間に「とても寒いです」とつぶやく。「そんなことやめろ!」という声もたくさんあるのですが、その一方で「がんばってね!」といった温かいツイートもいただきます。なにより、そうやって取材しているとわかってもらえるだけでも意味がありますよね。駆け出しの政治記者が、“こういう風に仕事をしているんです”というのを見てもらう意味も1つあるのかなと思います。
佐々野:東日本大震災の後、記者会見の場に新聞社など記者クラブの方、ネットメディアの記者、フリーの記者が入ったことで、会見の雰囲気は変わりましたか?
林:一番おもしろかったのはニコニコ動画の七尾さん。震災を機にネットも必要だろうということで、彼がずっと会見に並んでくださった。始めは「どんな質問をするのかな?」と興味深く見ていたんですが、非常に良質な質問をしてくれて、七尾さんの質問で我々が記事を書くこともあった。それからは「今日、七尾さんは何を聞くのかな?」と思ったりもしますし、そういう意味では悪くない関係なのかなと思います。
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ゲストに元産経新聞ロンドン支局長で現在もロンドン在住のジャーナリスト・木村正人氏、朝日新聞の林尚行記者を迎え、海外メディアと最前線で活躍する政治記者が見た衆議院選挙の裏側を徹底分析! 2013年の“ネットと政治”はどうなるのか考えました。(2012年12月20日放送)
【出演】
司会:大谷広太(BLOGOS編集長)
アナウンサー:佐々野宏美会 コメンテーター:須田慎一郎(ジャーナリスト)
ゲスト:木村正人(元産経新聞 ロンドン支局長)/林 尚行(朝日新聞 記者)
ネット党首討論会がメディアに与えた影響
佐々野:2012年も色々なニュースがありましたが、やはり最初は「衆議院選挙」でしょう。報道されている通り、自民党が全480議席中294議席を獲得し、およそ3年3か月に及んだ民主党政治から政権を奪還しました。一方、政権を奪われた民主党はわずか57議席にとどまり、野田総理は惨敗の責任をとって辞任を表明。
第三極では「日本維新の会」が54と大きく議席を伸ばして、民主党に迫る第三党の議席を確保しました。今回の衆院選には様々な争点があると思うんですが、過去の選挙と大きく変わったところといえば、やはりインターネットとの関わり方ではないかと思います。その点についてどんな感想をお持ちでしょうか?
須田:11月29日にニコニコ動画で10人の党首が集まり、党首討論が行われました。これまでは既存メディアが党首討論や選挙報道を仕切ってきたところがあるので、今回、最初の党首討論がネットメディアで行われたのは、非常に大きなインパクトがあったと思います。さらに、選挙戦最終日、安倍総裁と麻生太郎さんが最後に選挙演説をしたのが秋葉原。政治家がネットを意識しないと政治ができない状況になってきたのではないかと思いますが、そのあたりをどう受け止めたらいいんでしょうか?
大谷:ネット党首討論が行われた翌日、日本記者クラブ主催の党首討論があり、ネット党首討論には参加しなかった石原慎太郎さん(日本維新の会代表)も加わった11党の党首で行われました。テレビのゴールデンタイムでも放送されていたのですが、視聴者はどっちが多かったのか興味ありますね。
須田:民主党の安住淳幹事長代行が、最初「ネットで党首討論会をやる」と言ったら「偏ったメディアだ」と敵対心をむき出しにしていましたよね。
大谷:そのあたりが“ネットの声=民衆の声”という話につながるのかなと。ネット党首討論の現場にいて印象的だったのが、党首のみなさんが「インターネットユーザーのみなさん」と、呼びかけをしていたことです。「国民のみなさん」ではなかったのは、もしかすると“ネットユーザー”と“国民像”が、ちょっと違っているのかもしれないですね。初の「ネット党首討論」は、ご覧になっていかがでしたか?
木村:イギリスのBBCは日本でいうNHKのようなものですが、そこが先頭を切ってネットに対応していて、パソコンでもスマホでも見られる。2010年の選挙では、60万人のフォロワーを持つローラさんというBBCの若い女性記者がツイートをしたこともありました。単にツールが紙媒体や放送メディアから広がったという感じなので、日本の既存メディアとネットの間に溝ができているのは、ちょっと悲しいことだと思うんですね。「より効率的に世論の声が直接政治に届くような仕組みを作っていこう」という目標は同じなのに、なぜかいがみ合っているように見えます。
林:僕はネット党首討論会をネットで拝見させていただいたんですが、翌日の日本記者クラブの会見と合わせて見ると、視聴者もよくわかったんじゃないかなと。元々、「1対1で党首討論をやる場をどこに作るか」という話から始まったんですよね。それで、安倍さんが設定したのが“ネット党首討論会”という場で。安倍さんはFacebookでよく発言をされている方なので、その場に野田さんを引っ張り出して来て、ネットユーザーが見ている所で戦いたいということだった。ただ党がたくさんありすぎて、1人数分という決められた枠の中で、結果的に深い話をするゾーンが無かったように思います。
既存メディアとネットメディアに生まれた“溝”
須田:ぜひ、木村さんと林さんに聞いてみたいことがあるんです。それは、ネットメディアの立場からすると、既存メディアは「どうせネット」と上から目線でバカにしているんじゃないのかと。個人的な部分と組織的な部分で、どういう風にとらえているか、お話いただきたいんですが。
木村:僕は既存メディアは巨大で壁があるように思います。今から30年ぐらい前は、社会部と一緒にやっていたので、社会部の方から「アナタたちは、私たちからすごく遠いところにいますね」と言われたことがありません。行けば歓迎されて色々な話を聞くことができ、それを伝えるのが新聞記者の仕事だと思っていました。
それが、今一ブロガーとして個人の立場に立つと、ネット対応にしても課金システムを作って、なんとか取材に充てる財源を確保しようというのが見えちゃって。もうちょっとオープンジャーナリズムに立ち入ってほしいと思います。やっぱり質の高い紙面を作るには質の高い記者を抱えないと。その人たちの給料を払わないといけないから課金して、紙媒体の収入を守りたいというのはわかりますが、そこに距離を感じてしまう。既存メディアとネットの間に“溝”ができるのは、社会の中に“溝”があるということ。それは非常に危険なことだと思うので、そこをうまく誘導できるような双方の働きかけが必要だと思いますね。
須田:外部から見ると、朝日新聞はメディアの中のエリートなんですね。その中でも、林さんのような“野党キャップ”は、スーパーエリート。そのせいか、上から目線で見られているのかなという気持ちもあるんですけど、その点はいかがですか?
林:そういう気は全くないですね。特に政治の現場は、取材対象が政治家や官僚に限られているので、みなさんがどう考えて、どういう反応があるかをすごく怯えながら見ています。そういう意味では、普段、政治を取材している人間として、ネットの世界に対して“恐怖と興味”の両方を持っていますね。
僕は去年、首相官邸の取材班でしたが、政治記者と読者、あるいは読者じゃない取材対象外の人達と意見交換ができたらいいなと思って、去年の1月に「朝日新聞官邸クラブ」というTwitterを立ち上げたんです。最初の1,2週間は3000人ぐらいだったんですが、3.11をきっかけにたくさんの方がフォローしてくださって、今は4万にまでなりました。朝日新聞だから必ず攻撃されるというものでもないし、僕らもそれに対してちゃんと向き合っていこうと思っていますから。
大谷:朝日新聞さんは記者個人でもTwitterをやられていて、官邸担当記者さんのツイートは、その方、個人の生の部分が見えるような、取材の合間のちょっとしたエピソードもありますよね。そういう意味では、今までの新聞記事だけでは伝わらなかった、記者の生身の姿が垣間見えるんじゃないかと思っているんですが、ネットユーザーの反応はいかがですか?
林:“総理番”という記者が2,3人いて、ほとんど24時間体制で総理大臣の動静をずっと追っているのですが、総理がご飯を食べている時は、寒風吹きすさぶ中を店の前で待っているわけです。その待っている間に「とても寒いです」とつぶやく。「そんなことやめろ!」という声もたくさんあるのですが、その一方で「がんばってね!」といった温かいツイートもいただきます。なにより、そうやって取材しているとわかってもらえるだけでも意味がありますよね。駆け出しの政治記者が、“こういう風に仕事をしているんです”というのを見てもらう意味も1つあるのかなと思います。
佐々野:東日本大震災の後、記者会見の場に新聞社など記者クラブの方、ネットメディアの記者、フリーの記者が入ったことで、会見の雰囲気は変わりましたか?
林:一番おもしろかったのはニコニコ動画の七尾さん。震災を機にネットも必要だろうということで、彼がずっと会見に並んでくださった。始めは「どんな質問をするのかな?」と興味深く見ていたんですが、非常に良質な質問をしてくれて、七尾さんの質問で我々が記事を書くこともあった。それからは「今日、七尾さんは何を聞くのかな?」と思ったりもしますし、そういう意味では悪くない関係なのかなと思います。
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